<12>
「一週間どうしてたんだよ」
再びベッドに寝転がって、セッツァーは尋ねた。
「最初の三日間は寝込んでた」
「怖かったか」
「……たぶん。よく分からないわ」
「また意地張ってんのか」
「違う。あの事故が酷かったから、トラウマになってるのよ」
へぇ、とセッツァーが相槌を打った。
「やっと起き上がれるようになったら、あなたが良くないって話を聞いたの。それで様子を見に来たけど、あなた寝てた」
「……そうかよ」
「それで、あの冒険家?の人に付き合ってもらって、ツェンへ行った」
「ツェン?」
「そう。忘れた? 最初に会った街よ」
「そうだったか?」
「頭も診てもらった方がいいんじゃない?」
「……うるせぇな」
「それで、さっき帰ってきたところ。ちょっと確かめたいことがあったんだけど、あの街全然変わっちゃって、昔の面影なかったわ」
「戦争で酷いことになったからな」
「そうだったのね。知らなかった」
「で、確かめられたのか?」
「……駄目だった。でもいいの。また思い出せばいいんだから」
「何を確かめたかったんだ?」
ダリルはちらりと悪戯っぽい顔で彼を見た。
「最初に会った場所よ」
「そんなもん確かめてどうするんだ」
「あんたの背がどれくらいだったか思い出したかったの」
「背?」
「そう、身長」
「……悪かったな、チビで」
「あれから何センチ伸びた?」
「知るか」
「だから確かめたかったのよ。過ぎた時間を数えたかった」
「そんなもん数えてどうすんだよ」
「忘れないように、するの」
奪ったものの事を、二度と忘れないように。
心に刻み付けて、消えないように取っておきたい。
そんな事をしても、奪ったものは二度と戻ってこないけれど。
だからこそ、刻み付けておきたい。
「あんたのこの傷も」
ダリルはセッツァーの左腕にそっと触れた。
「忘れないわ」
「……ほう」
セッツァーは嘯いて鼻を鳴らした。
「まぁ、どれだか見分けがつけば、な」
-Fin-
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